第108話
素戔嗚(スサノオ)は一般的には出雲国(島根県東部)の神とされており、これを証するように出雲国風土記ではスサノオが己の魂を鎮めて大須佐田・小須佐田を定めたのでその地を須佐と呼ぶ旨を記しています。須佐神社(すさじんじゃ)は、島根県出雲市佐田町須佐にあり、現在ではここがスサノオの本宮とされています。
一方、和歌山県有田市千田にも須佐神社があります。延喜式神名帳には名神大社に列せられ、古くは非常に有力な神社だったようです。祭神は素戔嗚で、五十猛(イタケル)、大屋都比賣神(オオヤツヒメ)、妹神の抓津姫神(ツマツヒメ)の父にあたります。この三兄妹の神は全国に種を蒔いて青山と為したことが『日本書紀』に記されており、木の神として信仰されていることから、スサノオもまた木の神としての神格を帯びていたことが考えられます。
特に木材は船の材料として非常に重要です。海を舞台に活躍する海人らが、船の材料たる木を守護するスサノオを、船や航海を守護する神としても信仰するようになったと思われます 五十猛、大屋津姫、抓津姫が全国で木の種を蒔いた故事は、「鉄穴流し(かんなながし)」で大量の土砂を流して山が崩れ、採った砂鉄を「蹈鞴製鉄」で大量の木材を使用して禿山になってしまったのを修復する意味合いがありました。植樹により治山治水を行ったので五十猛は「木の神」、「林業の神」として信仰されています。
他にも出雲と紀伊の間に共通する地名や神社があることは古くから知られており、例えばクマノ(熊野)、イタテ(伊達 / 伊太弖)、カタ(加太 / 加多)、ハヤタマ(速玉)など多くの例が挙げられます。
このことから出雲から紀伊へ人々が移住したのではないかとする説が有力視されている一方で、延喜式神名帳では出雲の須佐神社が小社なのに対し紀伊の須佐神社は名神大社であることから、紀伊を拠点としていた海人らが瀬戸内海を回って出雲へ進出したと思われます。
そしてこの両者を繋いだのが木の神を奉斎した海人だった可能性は高いと言えそうです。
ています。
上述のようにスサノオはイタケル、オオヤツヒメ、ツマツヒメを子としており、この三神はそれぞれ紀伊国名草郡の式内社「伊太祁曽神社」(和歌山市伊太祈曽に鎮座)、「大屋都比賣神社」(和歌山市宇田森に鎮座)、「都麻都比賣神社」(論社は和歌山市吉礼の「都麻津姫神社」、同市平尾の「都麻津姫神社」、同市祢宜の「高積神社」)に祀られています。このように紀伊国においてイタケル、オオヤツヒメ、ツマツヒメを祀る三社は重要な地位にあり、中でもイタケルを祀る「伊太祁曽神社」は須佐神社と深い関わりが窺えます。
「伊太祁曽神社」の当初の鎮座地が社伝の通りに現在の「日前神宮・國懸神宮」の地だったとすれば、まさに紀ノ川の下流側に子神が、紀ノ川の上流側にあたる吉野地域に親神が鎮座していたことになり、木材の生産及び流通、加工といった一連の過程の起点と終点に父子の神がそれぞれ祀られたことになります。
※一部は和歌山県の須佐神社のホームページを参照にさせていただきました。
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<追記>
素戔嗚、五十猛、饒速日(大歳)など素戔嗚系を祀る神社は全国で圧倒的にたくさんあります。しかし、記紀には素戔嗚系の立場が悪く、高天原から追放され天津神から国津神に落とされています。これは663年の「白村江の戦い」で唐と新羅に大敗し1万名もの死者が出たことと関係があるでしょう。記紀が成立したのはその50年後ですから、新羅と縁の深いと思われていた素戔嗚系を落とし込む必要があったのです。印南神吉氏のホームページより引用
第79話でも書いたように記紀は、344年に新羅に攻め込んだのが、五つ彦(イトテ)すなわち五十猛であると「仲哀天皇紀」は書いています。そして九州にもどって来た五つ彦はそこで神功皇后に降伏するのです。
新羅に負けた責任を五つ彦(イトテ=五十猛)に擦り付けたています。しかも五つ彦は新羅系の王族として、この戦自体を新羅の内戦としています。つまり五つ彦が神功皇后に降伏したのは、五つ彦が日本に亡命してきたことにしているのです。
白村江の戦いから150年後の810年になると52代嵯峨天皇が即位し、「素戔嗚尊は即ち皇国の本主なり」と讃えました。これで素戔嗚系の名誉は復活しますが、事跡は消されたままで蘇らず、分からないことが多いのです。
※これまでの記事はこちらです。このプログは、御牧国(ミマキ国)が邪馬台国であるという前提の上で書いています。今までのところ矛盾なくここまて書き続けています。
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